こだわりという言葉。俺は、良い意味、良い響きは感じない。例によってひねくれ者なんである。
さらに、俺は、過程よりも結果を重要視する質だ。いや、結果のみしか認めない。
だから、こだわりは、ネガティブな匂いがするのだ。

どんなに旧式化しても。どんなに非効率でも。どんなに少数派でも。どんなに無意味な行為でも。
「こだわり」が存在する限り、前に進む事は無い。

こだわり、こだわりと声高に主張すればするほど。
無意味な行為を他人に押し付けている気がしてならない。

こだわりの宿。紹介者の仲介がなくては予約不可。さらに予約は2年前から受付。大抵は皇族が宿泊した事アリ。声高にこだわりを主張。
こだわりの鮨。紹介者の仲介がなくては入店不可。職人から食べている最中に説教される。声高にこだわりを主張。
こだわりのクラフトマンシップ。できあがるのは5年先、できあがった製品は故障ばかり。声高にこだわりを主張。
こだわりの実験。自分の仮説通りの結果が出るまで、永遠に条件検討を繰り返す。声高にこだわりを主張。
こだわりのラーメン。飲み物は水のみ。食べている時は会話禁止。スープの原材料を必ず言い当てる事。職人から食べている最中に怒鳴られる。声高にこだわりを主張。
こだわりの銀塩写真。デジタルに比し、優勢に見えるのはご本人のみ。声高にこだわりを主張。
こだわりの・・・。



やれやれ。




俺が学生の頃から、年に3回ほど顔を出す酒場がある。ブラッディーマリィがとても美味い。
ブラッディーマリィのレシピは単純だ。ウオツカをトマトジュースで割る。これだけ。
ただし。プロのバーテンダーは、ここから工夫をする。ウスターソース、食塩、レモン汁、コショウ、タバスコなどなど。

この店のエースとして活躍する男は、絶対にレシピを教えてくれない。ウオツカをトマトジュースで割った後、失礼と背を向けて数秒、細工をする。

俺は、教えろ教えろと、かつての同級生で、サークル仲間だったエースに迫るのだが、口を割らない。ヤツは、どんな拷問を受けても自白しないだろう。

この店のブラッディーマリィは本当に美味い。さらに恐ろしい事に、年に数度のversion up が行われているようだ。