俺は大変に特徴のある歯並びを有している。外見からは確認できない。ニカッと笑って、いーっってやっても貴方には見えない。

この特異な並び方。飲み会の時の一芸に何回か、この「歯並び」を使った。

わたしが殺されて、白骨死体となったら。この特異な並び方は大活躍するだろう。親が見たら確実に、わたしと断定するね。

この特異な並び方に気がついた、当時の主治医は。矯正を勧めなかった。思えばこれは、結構なミスなんじゃないかね。

初めて受診する歯医者さんは、確実に「おっ」と呟く。そして、いそいそと「歯形」をとる準備を始める。あのな、センセ、そこは悪いところと違いますぜ。
何を断りなしにデータ取ってるんだよ、オイ。
やめといた方がいいよぉ。
やがて、事務担当者がセンセのところに駆けつけてくる。センセと担当者は衝立の奥に隠れてひそひそ。
やがて。センセは「えへへへへっ」と乾いた笑いを浮かべて同意書のサインをおねだりしにくるのだ。見たな、わたしの特殊な保険証を。事後承諾になるからかえってやめたほうがいいよぉ、同意書は。

かようにネタを提供してくださりやがるわたしの歯並びだが、実害はあんまりない。体が疲れている時に舌が接触しやすいので、ぶちっとした可愛いおできができやすいぐらいのものだ。

ただね。「実害なし」とはいうものの。「邪魔」であるのには間違いないのだよ。こいついらないよ、無い状態を、一生に1度は味わってみたいと。いつも俺の舌と潜在意識は主張している。
つまり。(下記はYahoo!辞書からの引用)
・将来実現させたいと思っている事柄
・現実からはなれた空想や楽しい考え
を足して2を乗じて生ずる「ゆめ」だ。

アルコール常用者の俺が。なんの間違いか悪魔の仕業か、それともヤキが回ったのか。ごくごく稀にいっさい酒を飲まずに寝ると、「ゆめ」が叶うことが多い。

まず。歯茎が痒くなる。特異な並び方の辺りだ。やがて「ぐらぐら」し始める。出血が始まる。また来たな。ゆめが叶うのだ。

出血はまずいので、俺は得意の結紮で食い止める。でも。あとからあとから。鉄の味の液体がしみ出てくる。でも、悪い気はしない。ゆめが叶うのだ。

痒さがピークに達すると。ぼろぼろぼろぼろと歯が抜け始める。口の中が抜けた歯でいっぱいになってしまった。俺は、口いっぱいに抜けた歯をぶーっと吐き出す。ぶーーーーっ。

もうかなり出たはずなのに、あとからあとから。鉄の味の液体がしみ出てくる。固いエナメル質の塊が口中に溢れてくる。思いっきり。勢いをつけて。吐き出す。ぶーーーーっ。
また。邪魔な歯が抜けてきた。さらに吐き出す。ぶーーーーっ。

ぶーーーーっ。












写真はイメージです。



いい「ゆめ」は見れたかよ?
ゆめが叶った翌朝は。全身に倦怠感が広がり。世界が。嫌になる。
ゆめが叶った日の晩酌は。ハードリカーをストレートで呑る事に決めている。