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「父さんが渡れなかった海を、
お前たちは渡っておゆき。
そして伝えなさい。
父さんの見事なターンを。」
毎日見守っているつばめの巣がある。
いつも夫婦仲良く子育てしているのだが、
ある日気付くと、片親しかいない。
しかもぐったりと疲れた様子がやけに淋しい。
いつまでたっても戻らない相方を待っているかのようで
せつない。
子供らは相変わらずぴゃーぴゃー言っている。
父ちゃんどうした?!
いなくなったのは父親だと勝手に決めた私の脳内には、
この時既に冒頭の台詞が浮かんでいた。
「忘れないで。
父さんと母さんの命は、
お前たちの翼とともにある。
泣かないで。
お前たちの翼が羽ばたく限り
父さんと母さんもいる。
そして父さんと母さんの父さん達と母さん達も。
お前たちの命も
お前たちの子供たちの翼が羽ばたく限り
続くのだよ。
さあ行きなさい。繋いで生きなさい。
子供たちの、子供たちの、子供たちへ。
そして、
何処までも何処までも飛んでゆきなさい。」
タイムセールの文字の透けて見えている重いスーパーの袋を持って
やはりこういう状況は冬鳥のほうが絵になるのではと思い、
主役をマガンに変更。
ボーっと突っ立ったまま目を閉じ、越える海山をあれこれと推敲。
誰か私のメルヘンとロマンチックを止めてくれないか・・・
そう思って目を開けたらいつの間にか帰還した相方の飛燕が
今まさに威嚇せんとこちらへ飛来中だった。